Kininaru Topics 11

木材も、人材も、
地元から。

鹿児島県の北部、姶良郡湧水町に、国産材の活用を目的に設立された総合林業事業会社があります。それが、三菱地所グループのMEC Industry。この会社では、これまで活用が進んでこなかった南九州の大径木を活用し、丸太の調達から製材・加工、製品の製造・販売までを一気通貫して行っています。

有効活用が進んでこなかった直径30cm以上の「大径木」

大径木はかつて、民家の柱や梁として使われてきました。しかし、日本の家づくりの変化や木材の工業製品化、大径木を扱える製材所の減少など、様々な理由で活用されにくくなりました。だからと言って、伐らずに森に放置したままでは森の荒廃を招いてしまいます。そこでMEC Industryは、有効活用が進んでこなかった大径木に着目。地元の木材を積極的に活用することで、森の健全な育成だけでなく、地元林業の活性化による地方創生にも貢献しています。

こだわりデザインのデニムのユニフォーム、胸のワッペンは取り外しができる。

吹き抜けが心地よいエントランス。細部にも木を活かしたデザインが施される。

廃校跡地に新たに建てられた工場では、地元雇用を創出するために様々な工夫をしています。例えば、工場はデザイン性を重視したモダンな建物に、ユニフォームはデニム生地を使ったカジュアルなデザインに。従来の工場や林業のイメージを刷新することで、「ここで働きたい」と思ってもらえるような魅力づくりをしています。

社員食堂は、木の温かみが感じられる現代的で洗練された心地よい空間。

地元のお米や食材を使った日替わりメニューは、安くて美味しく、選べて楽しい。

また地元の中高生を対象にした工場見学や職場体験学習の受け入れなども実施。早い段階から就職先の選択肢の一つとしてインプットしてもらうようにしています。自社食堂では地元のお米や食材を使ったメニューが並び、その一部を地域の住民にも開放。単に地元雇用を創出するだけでなく、地域交流も深めることで、多角的な地方創生に取り組んでいます。

kininaru INTERVIEW

2020年の設立以来、地方創生に積極的に取り組んできたMEC Industry。そんな彼らを、地元の人はどのように見ているのだろうか。MEC Industryの原木仕入れ元である北姶良森林組合の郡山代表理事と山本総務課長のお二人に話を聞いた。

北姶良森林組合
代表理事組合長
郡山 学 氏

北姶良森林組合
総務課長
山本 幸弘 氏

森林組合とは、森林を所有している人が組合員となり、出資して、運営される協同組合のこと。いわば農協の林業版みたいなものだ。農協との違いは、組合員個人が山を管理するのではなく、組合の従業員が管理をしてくれること。一人では管理しきれない広大な森林の保全と管理を担ってくれる。
以前、北姶良森林組合では伐った木を主に市場で販売していた。市場では大きさ・長さで規格が決まり、製材業の人たちが需要に応じて木を買っていく。需要によって、売れる木・売れない木が決まるので、価格は安定しない状態だった。しかも普通、径が太い丸太の単価は高くなるが、北姶良森林組合が扱う木は径が細い丸太の方が高かった。この状況に変化をもたらしたのがMEC Industryだと山本さんは言う。

「太い丸太の製材には大きな機械と工場が必要なんです。でも、この辺にそんな大きな製材所はなかった。そこにCLT材や2×4材を扱うMEC Industryさんがやってきて、太い丸太を仕入れてくれるようになったのです」
そう、今まで売れなかった太い丸太が安定して売れ、価格も安定するようになったのだ。ちなみに森林組合の取扱量は2020年を境に右肩上がりに。2023年度は2020年度の2倍強となっている。MEC Industryの誕生は、森林組合にビジネス的な安定をもたらしただけではない。組合の目的である林業の発展にも大きく貢献している。

「私たちは森林生産の形態が間伐※1から主伐※2に移行している中、主伐・再造林主体の林業への転換を進めています。そのためには伐った後に、再造林する資金が必要です。今までは価格や販売が安定しなくて計画が立てられなかった。でも今は、MEC Industryさんのおかげで、計画を立てやすくなった。組合が管理している森林でいえば、100%できるようになりました」と郡山さん。

※1 間伐:森林の成長に応じて、その一部を伐採して、過密になった森林密度を調整する作業のこと。 ※2 主伐:木材としての利用を目的とした伐採のこと。

このようにMEC Industryは木の地産地消に加え、地元の林業発展という形でも地方創生の役割を担い、設立からわずか5年足らず(2025年5月時点)で成果を上げてきた。これから先、MEC Industryに期待することをお二人に聞いてみた。
「もっとMEC Industryさんの存在というか、良さを知ってもらいたいと思っています。そのために、MEC Industryさんの本社のような素敵な建物を地域にどんどん建ててほしい。住宅でも、ホテルでも。そうすれば、MEC IndustryさんのPRにもなるし、地域の活性化にもつながるんじゃないかな。まずは、我々の事務所の建て替えを考えているところです」と語る郡山さんに対して、山本さんは「そうですね。林業という面で言えば、MEC Industryさんが山を買って、木を育てるというのも面白いと思います。森林組合で管理できる山は決まっていて、それ以外は管理ができない。そこには木が伐られたままで、植えられない山もたくさんある。自分たちで育てた木で、自分たちのCLT材や2×4材を造るというのも面白いのではないかと思います」

ビジネスパートナーとしてだけではなく、地域の一員として、湧水町にすっかり溶け込んでいるMEC Industry。この先、どのような地方創生が生まれていくのか。地域の期待は、ますますふくらむばかりのようだ。

キになる記事一覧